「バイリンガルについて考える」


アルメニアという国は非常に面白い。

小国であり、常に周辺諸国に翻弄された歴史を持ち、世界各地に離散していった
(せざるをえなかった?)民族です。
華僑も世界に散らばっていると聞きますが、アルメニア人とユダヤ人くらい
世界の隅々まで散らばっている民族もなかなか珍しいかもしれないですね。

そんなワケで日本で読んだ色んな本には「アルメニア人は語学の習得に
特別な才能を持った人達が多い」としつこいほどに書いてありました。
彼等が「商業と交易の民」として成功した秘訣の一つにはその「語学習得能力の
高さ故」という風に書いてありました。

果たしてそれは本当でしょうか?

僕が実際アルメニア人と接してみて思うのは「YES」であり「NO」でもある、
という印象です。

確かに、この国の人は母語のアルメニア語は勿論の事(例外アリ!後述します)、
80%くらいの人がロシア語も喋れます。
特にロシア語は年配の人であればあるほど、上手に喋れます。
ソヴィエト時代はロシア語が喋れないと出世出来なかったからなのだそうです。
コチャラン現大統領もどちらかというとロシア語の方が得意らしいですけどね。
(それにしてはグルジア大統領のシュワルナッゼはロシア語が下手だ。)

そして、連邦が崩壊して独立してからのアルメニアでは、学生はどちらかというと
積極的に「英語」を学ぼうとする人が多いらしいです。
最近の就職における絶対条件の一つに「英語が喋れる」というのがあるからだそうです。

今ではアルメニアも「ロシア語10年制学校」は非常に少なくなってしまいました。
ですが、今でもイェレヴァンにはロシア語10年制の学校がある事はあります。
その学校はロシア語で基本的に授業をするらしいのですが、アルメニア語も勉強します。

で、アルメニア学校はというと勿論ロシア語も勉強します。これは半強制です。
授業によってはロシア語オンリーのコマもあるそうです。

これらの学校では入学時に「ドイツ語」「英語」「フランス語」のどれかを
第3外国語(!)として選択して勉強していくらしいです、、、スッゲェ、、、

実はコレ、アルメニアだけの問題なのかどうか分かりませんが、
「世代の断絶」として結構深刻らしいです。

親はソヴィエト時代にロシア系の学校で学び、どちらかというと
アルメニア語よりもロシア語の方が得意!なのに、独立以後は
思いっきり体制変換して全てをアルメニア語中心にしてしまったもんだから
さぁ大変ッ!

親の世代は「ロシア語」、子供の世代は「アルメニア語・英語」という
日本では考えられないような現象が起きています。

で、アルメニア人を見ていて思ったのですが「バイリンガル」というのは
有り得ない!というのが僕の印象です。
絶対にどちらかの言語に偏ってしまいます。
考えてみれば、ウクライナ人やベラルーシ人がロシア語を学ぶ場合と違って
アルメニア語やグルジア語は文字も文法も発音も何もかもが
ロシア語とは異なります。大変ですよ、コレは、、、

僕の知ってる女の子はアルメニアで生まれて育ったにも関わらず、
「アルメニア語」が全く分かりません。
アルメニア語で話し掛けても「分からないからロシア語で喋って!」
と言うそうです。

すかさず、「アルメニア人なのにアルメニア語が喋れないのは変ではないか?」
と聞くと「だって、両親も親戚も皆ロシア語だけ喋っているもの、、、」
と普通に言います。まぁ、これはこれで良いのですが、、、

かと思うと、学校でマジメに勉強しなかったからか僕以上にヒッドイ
ロシア語を喋る人も結構居ます。特に書かせると凄まじいです。
こうして親の世代との「断絶」が進んでいくワケですね。

また、「ロシア語もアルメニア語も英語も不完全にしか読み書き出来ないし、
喋れない!」という人も知っています。
コレはアルメニアでも僕の知る限り例外中の例外ですが、一体頭の中では
何語が渦巻いているのか非常に興味があります。

実は、アルメニア人でもアルメニア語の読み書きが完璧に出来る人は
少ないらしいです。あるアルメニア人からそう聞きました。
あるアルメニア生まれのロシア人に「どうしてアナタはそんなにスラスラと
アルメニア語が読めるの?」と言ったアルメニア人が居たそうです。
日本人の感覚からするとビックリなのですが、こんな話はザラにあります。

以前、このHPの掲示板でバスク地方在住の人も書き込まれていましたが、
世界各地で少数言語というのは絶滅の危機に瀕しています。

見る限り、アルメニアは大丈夫そうな危機に瀕しているような、、、
だいたい、アルメニア人の中には「ロシア語や英語の方が将来役に立つ」
と思って母語以上に一生懸命勉強していたりしますからねぇ、、、

結局、自分の「核」となる言語はやはり一つになるようです。
言語を深く追求したり、新しい外国語を学ぼうとすればするほど
しっかりとした自分の核となる「母語」が重要なのではないでしょうか?
その母語の習熟度によって、新しい外国語を学ぶ能力が
左右する、、、等と言っては大袈裟でしょうか?

しっかし、日本語って義務教育の9年間の「国語」の時間をかけて
読み書きをマスターするワケだから、本当に大変な「言語」ですよね。
常用漢字が2000あって、各漢字に音読みと訓読みがあって
さらに非常用漢字が7000もあって、、、
でも、僕は日本語は外国語と比較してもとてもシステマティカルで
表現力に富んだ楽しい言葉だと思います、、、と言ったら身贔屓かな?

イェレヴァン在住の謎の日本人の友人A氏(仮名)が言っていたのですが、
「日本語は敬語だの丁寧語だのが複雑に入り乱れているから
2、3ヶ国語を喋っているのと同じだ」と言っていました。

彼はフランス語が喋れるのですが、実際に日本語を教えている立場から
それぞれの外国語と比較してそのように感じるのかもしれませんね。

でも、確かに言われてみるとそうかもしれないです。

外国で暮らしていて、時々本とか読んでると「フ」と
「何で俺は平仮名もカタカナも漢字も混じった複雑で
且つ敬語やら丁寧語やら造語も交えた日本語が読めるんだろう?」
と不思議に思う事があります。とても妙な感覚です。

アト、ある人から日本とアルメニアを比較した面白い話を聞きました。

「日本人は例え漫画であれ雑誌であれ新聞であれ、「活字」に囲まれた社会だから
日本人は当たり前のように日本語の読み書きがこなせる。
しかし、アルメニア人は本もあまり読まないし、雑誌なんて滅多に買わないし
滅多に買うこと無いケド、買ったとしてもロシア語であったりするもんだから
アルメニア人はアルメニア語の読み書きを苦手にしている人が多いんですよ。」

確かに、北コーカサスの言語は元々が喋るためだけの言葉だったから
なんとなくそれは理解出来ます。
例えば、チェチェン語とかアブハジア語、政府の命令で去年から
ラテン表記オンリーになってしまいましたがアゼルバイジャン語も
「改良キリル文字」で表記していますものね。

ですが、アルメニア語はインド・ヨーロッパ語族に分類される言語だし、
文字も比較的早くから作られていたのに、、、
やはりそれは、「ソヴィエト」という特殊な時代を経た影響なのでしょうか?

話者の一人一人が母語を大切に思う気持ちは重要ですね。
「言葉」こそ文化を作り上げる重要な源泉なのですから。

「最初に言葉ありき」なハズなのですケド、、、アルメニアは例外のようです。

アルメニア、そしてアルメニア人というのは本当に本当に不思議です。
つくづくそう思う。