
「素性の知れない人の見分け方」
来る日も、来る日も炎天下をアパート見る為に歩き回っていて、いい加減にイヤになっていた。
実は、アパートの値段はほぼ一緒。ソヴィエト時代に計画経済に沿って建てられたアパートばかりだから
間取りも一緒。バルコニーもほぼ一緒。
要は、メインテナンスがキチンとされているか?という事と、隣人がどんな人間か?という事がポイント。
出来れば、1階はなるべく避けたい。エレベーターが壊れた時の事も想定すると3階がベスト!
しかし、そんな都合の良い物件が簡単に見つかるワケがなく、毎日、足が棒になるまで歩き回った。
仕事が無い日はサーシャも一緒に付いて来てくれた。
、、、サーシャと一緒だから良くなかったのだろうか?
日が暮れる頃には疲れ果てて「千鳥足」になって帰って来る。
ロシアやウクライナ等にはヴォトカの「立ち飲み屋」がある。
紙コップに100グラムとか、200グラムとかついでくれるアレだ。ワインもある。
暑いもんだから、ついつい喉が渇くと二人でイソイソと「立ち飲み屋」に入ってヴォトカをあおる。
しかも、歩いていると必ずサーシャの知り合いに会ってしまう。するとサーシャが、すかさず紹介してくれる。
サーシャ:「彼は日本人のリャンチキと言いまして、云々かんぬん、、、」
友達:「おぉ!日本人ですか!これは、これは!御近付きのしるしに、ソコのヴォトカ屋で一杯やりましょう!」
全員:「賛成ー!行きましょう、行きましょう。」
飲み出すと即座にブレーキが壊れだす男達である。
僕はロシア人は冬の寒さを凌ぐ為にヴォトカを飲むのだと思っていた。
しかし、夏でも昼真っからガンガン飲んでいる。ただ単に、飲むのが好きな男達なのだ。
これを一日に何回か繰り返している内に、完全に出来上がってしまうのだ。
ヘベレケ状態でアパートを見に行くなんて失礼極まりないと自分でも反省するのだが、
ソコは流石「酔っ払いに寛容な国民性」、相手は気に掛ける様子も無い。
しかし、暑くて暑くて歩き回るのは大変だし、アゾフ海の近くに住んでいるのに何で泳げないのだ!
浜辺でノンビリして怠けたい!という頭がもたげてきた。
そうだ!そうだ!一日くらい泳いでも良いのだ!海パン買ってレッツゴー!!!うらぁぁぁ!
徹夜明けのサーシャが付いて来てくれるという。えー、海で飲んだら危ないよー。
と、思ったらそうではなくて、サーシャの双子の娘「アニャ」と「ダーシャ」の子守りを
奥さんから言い渡されたのだそうだ。この双子とは冬に会った時から知ってはいたけれど。
「海に行くんなら、この子達と一緒に遊んでいておくれ!」という事らしい。
実際、サーシャと一緒にアパートを見て歩いた時も、時々この双子は付いて来てくれた。
好きなモノはアイスクリーム。冬の寒い日に、「何が欲しい?」と聞いたら「アイスクリーム!」と
言われたのには驚いた。マイナス20度なのにアイスを食べたがるんだから、よっぽど好きらしい。
試しに、「何が飲みたい?何が食べたい?」と聞いたら、やはり「アイスクリーム」と言っていた。
ウクライナのアイスクリームはロシアやアルメニアのよりも美味しいから僕も好きだけどね。
双子なので、非常に良く似ている。当たり前か、双子なのだから。耳のほくろで区別していたけれども。
そして、サーシャの娘にしてはとっても可愛い。お母さんに似たのかな?
この子達は、将来きっと美人になるでしょう。「酔っ払い」との結婚にだけは気を付けて欲しい。
等と、スッカリおっさんモード全開の老婆心を出してしまったが、とりあえず海に行く事に。
やっぱり、素晴らしいじゃないか!アゾフ海。皆、とっても楽しそうだゾ!
「日本とは違うなぁ」と感じた事は、お腹の大きなお年寄りの夫婦が水着姿で日光浴をしていたり、
水辺で孫と遊んでいる所。とっても心が和む風景に思わずウットリ。
日本だと、「お腹が出ているから」とか「肌がもう汚いから」とか言って、お年寄りは水着なんて着ないけれども、
ウクライナでは関係無し。若い人も、お年寄りも海では楽しんでいる様子。
そして、まぁロシア人、ウクライナ人のスタイルの良い事、良い事。
アニャとダーシャは12歳だけれども、足がスラーッと長くて、頭が小さくて、、、チョッピリ羨ましい。
見渡せば、当たり前だけれどもそんな人達ばかり。
男性:頭が小さく、肩幅が広く、足も長い。若い人はハンサム多し!
女性:上記に加えて、胸とお尻が大きい。美人多し。
女性が身に付けている水着の殆どが「Tバック」だったので最初は目のやり場に困ったが、
皆が皆、そんな格好をしていると気にならなくなるものですね。
日本の女性みたいに、サポーターだのパットだのなんて誰も付けていないようでした。
ロシアでは、「夏にいっぱい日焼けをして肌を焼いておくと冬場に風邪をひかなくなる」
と信じられているからか、皆一生懸命に日焼けしている。
場所取りをしていたら、サーシャの長女・ナターシャに遭遇!オー、初めて会った。
冬に来た時はオデッサに仕事で行ってたんだっけ。で、今回が初対面。
「荷物を見といてあげるから、泳いで来たら?」と言われて、お言葉に甘える事に。
ウォオオオ!海なんて何十年振りだろうか?セヴァン湖と違って海水は生暖かい。
泳いでいたら双子が追いかけてきた。
アニャ&ダーシャ:「あのね、私達もあの人達みたいに足を持ち上げて空中に放り投げて欲しいの」
その「あの人達」を見てみると、、、片足を両手で持ち上げて「いっせーのせッ!」で空中に放り投げる。
放り投げられた人は頭から海水へ真ッ逆さま。楽しそうだけれども、危なくないかい?
アニャ&ダーシャ:「大丈夫、大丈夫。ラス・ドゥヴァー・トゥリーで後ろに放り投げてね。」
というワケで、サーシャに代わって僕が子守りをする事に。
ラス・ドゥヴァー・トゥリー、ラス・ドゥヴァー・トゥリー、、、ふぅ、結構大変だなぁ。
最初はおっかなビックリやっていたけれども、双子はキャーキャー言いながら喜んでいる。
ウーム、どう考えても日本の子供達よりもワイルドだし、怖いもの知らずだ。
次々とザブン、ザブンと頭から飛び込んでいる。40分くらいやっていただろうか?
腕の筋肉が痛くなってきたので、泳いで逃げようとしたら追いかけられて即座に捕まってしまった。
えー、まだやるのぉ?腕の筋肉がもぅ、、、
アニャ&ダーシャ:「いいから、いいから。ハイ、いくよー!ラース・ドゥヴァー・トゥリー!」
もぅ、疲れたよ。サーシャ代わってぇ。ゆっくりする所か、かえって疲れているような、、、
それでも海水は心地良かったし、なんとも純粋な子達で可愛かったのでその後もしばらく頑張る。
しばらくして、ようやく解放された。これ以上やったら腕がねぇ、、、
浜辺に帰ってみると、、、ナターシャとサーシャが喧嘩している。(派手な喧嘩でない)
ナターシャは「親父!ヴォトカ飲むな!」と言い、サーシャは「俺の金だ!文句あっか!」と応戦している。
その後は、浜辺でひっくり返っていた。疲れたべ、、、
ビールを飲みながらゴロゴロしていたら、お婆さんがジーッと自分の方を見ている。
暑いからビールを飲みたいのかな?と思って「飲みますか?」と聞いてみたら、
「いや、ビールが飲みたいんじゃなくて、あなたが今飲んでいるビールの瓶が欲しいの」と言われた。
空き瓶はお金になるらしい。しかし、見られているとなんとなく飲むのが恥ずかしい。
慌てて飲んで、お婆さんに瓶を渡した。
ウクライナは年金が30ドルくらい。お年寄りは、生活が大変なのだ。
しかし、ウクライナは年金受給者に様々な優遇政策があるだけアルメニアよりかはマシだと思う。
ガス、水道は安く享受出来るらしい。しかし、ダニエツク州の水質にはかなり問題があるけれども。
ウクライナは、様々なエネルギーをロシアに頼っているらしいが、丸っきりお金を払っていないらしい。
アルメニア、グルジアのように地政学的にロシアにとってウクライナほど重要ではない地域に関しては
「金を払わねーんなら、相手にせん!」の一言で終りだが、ウクライナだけはそうもいかないらしい。
NATOの防波堤の役割を担う(ロシアに担わされている?)ウクライナだけは、特別なのだ。
お互いに言いたい事もあるのだろうが、ロシアとウクライナは微妙な関係の上で成り立っている。
なので、エネルギー代金をひたすら踏み倒してもロシアは強くウクライナをつつけないのだろう。
2003年は、肥沃な黒土を持つウクライナでは記録的に雨が降らなくて大凶作だったとニュースで言っていた。
従って、ガツンとインフレ状態になってしまい、多少国民生活にも影響があったらしい。
プーチン大統領が「ウクライナは我々の兄弟国。我々は勿論小麦粉の援助をする。」とテレビで約束していた。
しかし、「ソコはビジネスライクにいきましょう。利子を付けて返してくれるとか、
小麦粉自体に利子を付けて返すとか。」と付け加えていた。
、、、本当に兄弟国なのかね?しかし、流石ロシア人だな。ちゃっかりしてるし、言う事はハッキリ言う。
後日、インターネットのニュースを見たら思わず吹き出してしまった。
ベラルーシのルカシェンコ大統領が「我々もウクライナを援助する用意がある」と声明を出した後の
ウクライナ政府、及びウクライナ国民の反応。
「毎年、俺達が小麦粉やら何やら様々な援助をして成り立っている国が、今度は俺達を助けてくれるだってよ。
アホか、アイツら。ベラルーシから何が出てくるってんだよ!ウヒョヒョヒョヒョヒョ!」
可哀相なルカシェンコ大統領。しかし、大ロシア(ロシア)と小ロシア(ウクライナ)に挟まれた
白ロシア(ベラルーシ)は本当に影が薄い。どんな国なのか興味はあるのだけれども、、、
サーシャが何処かに行ってしまった。
なので、ナターシャがウクライナの最近の宗教について話をしてくれた。
ナターシャ:「あそこに教会があるのが見えるでしょう。アレは『バプティスト』の教会なんだよ。
私も親父も正教徒だけど、お母さんとアニャ、ダーシャ、スラヴィック(長男)は
バプティストなんだよ。末っ子のパーシャもそう。
スラヴィックは子供の頃から病気で、長く生きられないと医者に言われていたんだけど
お母さんがバプティストに改宗して、毎日、来る日も来る日も教会でスラヴィックの為に
祈りを捧げたのね。そしたら、白血病が治ってしまったんだよ。コレ、本当の話。
(冬にスラヴィックに会った事があったが、背が高い健康そうな男前だった。)
バプティストは、男も女も敬虔な人が多いね。最近、改宗する人が増えている。
難しい説法をするからリャンチキには面白くないかもしれないけれども、
暇があったら教会に行ってみると良いと思うよ。皆で歌を歌ったりもするし。」
ワシ:「正教徒とバプティストは何が違うの?」
ナターシャ:「何が違うって言われてもねぇ。信じている神様が違うと言えばそうだし。
例えば、パリーナおばさんは『エホバの神』を信じているし、
私達、オーソドックスな正教徒は『イエス』を信じているし。
バプティストのお母さんは、、、はて、何の神様って言ってたかなぁ。」
後日、時間が少し余っていたので教会に行ってみた。
説法はサッパリ分からなかった。ウクライナ人がウクライナ語で何やら言っていたがコレもサッパリ。
ロシア人らしき人が、「私は罪を犯して3回も刑務所に服役していました。しかし、これからは
バプティストに改宗して人の為になる、愛のある、神に導かれた人生を送ろうと思っています」
というような事を言っていた。
お年寄りが熱心に説法を聞いているのが印象的だった。
僕みたいに宗教心が薄い者(つーか、無神論者だが)には、やはり宗教の持つ力や
人々の信仰心は理解出来ない。しかし、人が神様を信じるのは大いに結構な事だと思う。
僕は、宗教に関して「信じるのも人の勝手。信じないのも人の勝手」というスタンスをとっている。
信じている人に「何で信じてるんだ?神様なんて居ないのに」等とは言わないし、
信じていない人にも「お前は偉い!」等とは言わない。
宗教を否定した「共産主義下」でも、ソヴィエトの人々の心の中に生き続けた信仰心は、
やはり絶対なるものなのだろう。そういうデリケートな問題に僕なんかが口を挟めるワケがない。
特に、正教徒とカソリックが混在するウクライナでは「宗教」というものは微妙な問題なのかもしれない。
と、ナターシャと話していたらサーシャが友達らしき人と戻って来た。
サーシャ:「オイ、頼りになる不動産ブローカーを見つけて来たゾ!コイツは友達の友達の友達で、、、
(要するに赤の他人なんだな。)名前はヴォーヴァって言うんだ。
100ドルで、全ての面倒を見てくれるそうだ。」
と、サーシャに紹介されたヴォーヴァという男。
ウーム、金髪が眩し過ぎる。眉毛から睫毛、髪の全てが美しいブロンド。
髪の色を染めている人は、ロシアにもウクライナにも沢山居るけれども、
ヴォーヴァみたいに、天然でブロンドの人って珍しいかもしれない。
ほどよく筋肉のついた体型に、笑うと清々しい顔をするナイスガイ!
ウーム、胡散臭い。(←性格悪いな、俺ってば)
しかし、サーシャという保険もあったし、外国人一人では埒があかないので
結局、後日ヴォーヴァに頼む事にした。
結論から言うと、たった100ドルでここまでしてくれるのか?というくらい
良く働く男だった。微に入り細に入り役所で全てを調べ上げてくれたし、
家の持ち主との値段交渉でも抜群の能力を発揮してくれた。
何処に行くにも付いて来てくれたし、分からない事には何でも答えてくれた。
初対面の時に、「胡散臭い」等と思ってしまって悪かったと思った程だ。
結局、アパート自体は自分で新聞で見付けたのだが、非常に有利な条件で
アパートを買えたのはヴォーヴァのお陰だった。
家の持ち主とギリギリと交渉してくれたのも、彼だった。
そういう意味では、アルメニア人のブローカーよりも遥かに働き振りが良くって
「この国、というかCISにもこんな人が居るんだなぁ。」と、その時は素直に感心した。
しかし、、、最後の最後で「ある事」をやらかしてくれた。
本人自体に悪意が無い事は分かるのだが、そのせいで危うくアパートが買えなくなる所だった。
その「ある事」とは、、、ロシアやウクライナに蔓延する病気のせいだ。
というワケで、サーシャが仕事をしている時はヴォーヴァが付き添ってくれた。
この時、少しだけ希望の光が見えたような気もしたが、後になって気のせいだと気が付いた。
ここから、ゆっくりと地獄に歩いて行く事になろうとは、思いもしなかったのだが。
アルメニアで人の仕草や行動、言動から十分に人を見抜く目を養ったつもりでいたのだが
ロシアやウクライナのソレは見抜けなかった。
ヴォーヴァ自体はどちらかというと、仕事は出来る人だったと思う。
性格も特に変わった所がなくて、ごくごく普通の人だ。だからこそ、「壊れた」のだろうか?
しかし、毎日暑いなぁ。アゾフ海でアニャやダーシャと遊んでいる方が楽で良いな、
等と呑気に思った日。普通に暮らす分には、ウクライナはのどかで好きなんだけどなぁ。

冬に撮ったバプティストの教会